2021-06-02

「良い翻訳者」ってなんだろう?

翻訳会社にプロジェクトマネージャーとして13年勤務していました。その間、非常に多くのフリーランス翻訳者の方々と一緒に仕事をさせてもらいましたが、一口に翻訳者といっても相手も人間なので、当然いろんな方がいらっしゃいました。今回は、そんな中から翻訳会社目線で「この人は良かったな」と印象に残っている翻訳者についてお話したいと思います。

目次

前提は「品質が良い」翻訳者

良い翻訳者を語ると言っても「品質が良く、良い訳文を作れるのが良い翻訳者なのでは?」と思われる方がいるかもしれません。そのとおりなのですが、「品質が良い」というのは「良い翻訳者」の前提条件、必須条件で、そこに何か付加価値が見いだせる人こそが、お付き合いしたくなる「良い翻訳者」というのが私の考えです。

翻訳者というと、実力主義の中で腕一本で食べていく、というイメージもあるかもしれませんが、翻訳のプロジェクトには非常に多くの人が関わっています。その中で総合的に良い翻訳者として関わっていくには、単純に翻訳が上手ければいい、と一概に言えるものではありません。例えば「翻訳100点、ビジネススキル10点」の人と「翻訳80点、ビジネススキル100点」の人だったら、私は後者の方と積極的にお付き合いしたいと考えます。

翻訳品質は、翻訳者の最大の武器であることは間違いありませんが、唯一の武器ではありません。というわけで、具体的にどんな点が見られているのかを説明していきたいと思います。

一言で言うと「○○な人」が人気になる

個人的な見解ではありますが、良い翻訳者を一言で表すと、ズバリ「マメな人」です。普段のやり取りや翻訳の作業に関することまで、それぞれは些細なことですが、それが積み重なって頼む側にとっては印象が強くなります。

反対に「雑な人」は、いくら訳文の質が高くても、アサインする翻訳者を検討する際に「あの人か…でもなあ」という思いが頭をよぎります。もちろん質は良いので優先度は高い所にいるのですが、何かのきっかけで「今回は止めておこう」となることがないわけではありません。

「マメな人」とは基本的には些細なことの積み重ねになります。すべてを兼ね備えたパーフェクトな人になろう!という押し付けではないので安心してください。もちろんそうであれば一番よいのですが、人はそう簡単に完璧な人間にはなれませんし、そうである必要もないと私は思っています。というか、「じゃあお前は全部できているのか?」と問われれば、できてないです…
ただ、こういう人は好まれる、ということを気に留めて置くだけでも、随分コミュニケーションのとり方は変わってくるので、取り入れられるところは自分なりに参考にしていただければと思います。

メールの返信が早い

これは翻訳に限らずビジネススキルが語られる際は必ずと言っていいほど言われることですね。打診があったとき、スケジュールの確認があったとき、作業ファイルを受け取った時、早い人は本当に早いです。「今は出先ですが、後ほど確認して折り返します」と、とりあえず一旦返信をしてくれる人もいらっしゃいます。

特にプロジェクトの翻訳者を確保する段階では、対応の可否に関わらず早めの返信は本当に助かります。その時は都合が合わなくても、次回はお願いできるといいなと思いますし、印象は良くなります。即レスを徹底するがなかなか難しくても、少なくとも日をまたいだ返信はできるだけ避けたほうが良いと思います。

メールの文面から人となりは透けて見える

翻訳会社と翻訳者のやりとりは、基本的にほとんどメールのみです。文字でしかコミュニケーションをとらないので、相手の表情や性格はメールの文面から勝手に想像されてしまう、ということに注意したほうがいいです。毎日何人もの翻訳者とメールのやりとりをしていると、かなり人によって文面から受ける印象が違って見えてくるようになります。丁寧な言葉で読みやすいメールが書ける人と、ぶっきらぼうだったり、誤字脱字がやたらと多い人だったりする人がいると、いつの間にかその人に対するイメージが受け取る側の頭の中で勝手に作られていくものです。

勘違いのないように言っておくと、「腰の低いメールを書きましょう」ということではないです。別に卑屈になる必要もありませんし、翻訳会社と翻訳者は対等な関係なので、必要以上に丁寧さを意識すると逆に気持ち悪い文章になってしまいます。文面から人間味を感じさせる文章といったら難しいかもしれませんが、翻訳は文章を書く仕事ですから、こういった普段のやり取りにも気を使ってみてはいかがでしょうか。

ケアレスミスや作業指示違反がほぼない

翻訳の品質を評価する上で、重大な誤訳の有無や訳文の流暢さなどはもちろん大事ですが、タイポや誤変換、スタイルガイド違反や作業指示の見落としといった、どちらかといえば些細なミスが「多いか少ないか」というのはかなり重要なポイントです。一つ一つのエラーの重要度は低くても、そのようなミスが多い翻訳者は、全体で見て点数が高かったとしても、「あまり見直しをしていない」「指示をちゃんと読んでいない」という印象がつきます。逆に「この人に頼むと「誤字脱字はまずないし、伝えたことには必ず従っている」という印象のある人はある種の安心感があるので、翻訳者を選ぶときに必ず候補にあがってきます。何にでも言えることですが「基本を大事にしている」人が持つ安定感、安心感は長期的なビジネスで考えたときに何者にも代えがたいものだと思っています。

申し送りがちゃんとしている

申し送りは、ある意味成果物そのものよりも重要なものです。作業中に発生した不明点、問題点について適切な申し送りができる人は、自分が翻訳のプロジェクトの一員であるということをしっかり意識できている翻訳者と言えます。

後工程に配慮がされた申し送りがあるだけで、翻訳を納品した後の工程のスムーズさは天と地ほどの差があります。翻訳の作業中には、その場では解決できない問題がしばしば発生するものですが、何故、そのような訳となったのかについて正確にストーリーが説明された申し送りが理想的なものです。

反対に次のような申し送りはあまり意味がなく印象が良くないので覚えておいてください。

  • 「分かりませんでした」とだけ書いてある
  • 「不明な用語でした」と書いてあるが、実際に調べると簡単に訳が見つかる
  • 憶測だけで訳されていて申し送りがない
  • 「自信がないので確認をお願いします」と書いてある

どれも後の作業者に判断を丸投げするものや、調査不足によるものです。このような申し送りが大量に含まれている場合、翻訳者としての能力に疑問符が付いてきます。

自分で考える力、自己解決力が高い

ここまで「マメな人」とはどんな翻訳者か、ということについて説明しましたが、これらは総合的な能力として「自己解決力」という言葉につながってくるのかなと思います。翻訳会社側としても可能な限り翻訳者をサポートしていく努力は必要ですが、それに頼り切った姿勢になるのではなく、さまざまな問題に対して能動的に対処できるという部分は、一緒に仕事をしていくパートナーとして非常に頼もしく、頼りに映ります。

ちょっとした気遣い一つで、「その他大勢」ではなくなる

翻訳会社は日々たくさんの翻訳者の方々とやり取りをしています。その中から誰を選ぶのか、誰と長くお付き合いをしていきたいかを考える上で、品質はもちろんですが、これまで挙げたようなちょっとしたポイントは意外と重要になってきます。そのようなアピールポイントが一つもないと、いわゆるその他大勢となって順番がなかなかまわってこなかったり、それらのポイントでマイナス方向のアピールをしてしまうと、案件獲得の機会そのものが失われてしまうかもしれません。

気遣いだけですべてがうまくいくというわけではもちろんありませんので、翻訳という作業そのものに支障をきたすほど注力する必要はありませんが、ちょっと気に留めて置くだけで必ず他とは差がついてきますので、日々の取引先とのやり取りについて、振り返る機会を持ってみてはいかがでしょうか?

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